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大阪高等裁判所 昭和59年(ネ)173号 判決

控訴人 山下盛吉こと許南赫

被控訴人 国 ほか一名

代理人 長野益三 伊森操 ほか二名

主文

本件控訴のうち、京都地方裁判所昭和五五年(ワ)第四八一号差押債権取立請求事件についてなされた判決を取消し同事件を同裁判所に差し戻すことを求める部分を却下する。

同裁判所昭和五八年(ワ)第一三三九号差押債権取立請求当事者参加申出事件についてなされた判決を取消し、同事件を同裁判所に差し戻す。

事実

第一当事者の求める裁判

一  控訴人

被控訴人国を原告、被控訴人岩本相俊こと李相俊を被告とする京都地方裁判所昭和五五年(ワ)第四八一号差押債権取立請求事件(以下単に四八一号事件という)の判決及び控訴人を当事者参加人、被控訴人らをいずれも被参加人とする同裁判所昭和五八年(ワ)第一三三九号事件(以下単に一三三九号事件という)の判決を取消し、本件を同裁判所に差し戻す。

二  被控訴人ら

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

第二当事者の主張

一  控訴人

控訴人の主張は、次に付加するもののほかは、一三三九号事件の判決(以下これを原判決ともいう)の事実(原判決中の「参加人の参加の理由」、「参加人の請求原因」)摘示のとおりである(ただし、原判決三枚目裏二行目の「参加人」を「被参加人ら」と改める)から、その記載をここに引用する。

1  原判決は、控訴人(当事者参加人)の参加申出を参加要件の欠缺を理由に却下する旨の判決を言渡し、また京都地方裁判所は同時に、被控訴人ら(原告・被告)間の四八一号事件の請求について本案判決を言渡したものであるが、これらはいずれも違法である。

2  独立当事者参加(民訴法七一条)の申出は、被参加人らに対する訴提起の実質を持つものであるから、参加の申出が仮に参加要件の欠缺を理由に不適法として却下されたとしても訴訟要件を具備している以上被参加人らに対する訴は残る。

故に、本件却下判決のあとにも、当事者参加人(控訴人)と被参加人ら(被控訴人ら)との訴訟は、なお、京都地方裁判所に係属していることになる。

前記本案判決(控訴人国に請求権を認め、且つそれにつき一部敗訴となつた判決)に、控訴人は承服することができないので控訴しなければならないものであるが、控訴するとその限りで控訴審(御庁)に係属することとなる。

そうすると同一の訴訟物についての訴であり、必要的共同訴訟の関係にある訴訟が、京都地方裁判所と御庁の双方に同時に係属する結果となるのである。

3  右の事態を避けるために、当事者参加の申出を不適法として却下する場合には、その却下判決の確定があるまで、被参加人相互間の訴訟手続は中止されるべきであつたのである。

故に、参加の申出を却下した原判決及び同時に被参加人相互間の訴について本案判決を言渡した四八一号事件の判決は違法である。

4  原判決は、控訴人の当事者参加の申出を不適法として却下したが、その理由に承服することができない。

独立当事者参加の申出はいかなる時機においてもなしうるとされている。

被参加人間の本案訴訟と、当事者参加人の被参加人らに対する訴(参加申出)は、必要的共同訴訟の関係にあり、本案判決は合一確定の必要があるという本件において、いかなる時機においてもなしうるとされている参加申出を裁量で却下した原判決は違法である。

二  被控訴人国

1  一般に民事訴訟は、原告と被告との相対立する二当事者間において開始遂行されることを原則とするのであるが、民事訴訟法七一条は、訴訟経済と紛争の合一的解決を図るために特に法定の要件の下に、他人間に存在する訴訟状態を第三者が利用することを許す例外の場合として、当事者参加の制度を設けたのである。

参加の申出は、訴訟の係属中にこれをすることができるとされているけれども、独立当事者参加の制度は、もともと他人間に存在する訴訟をその参加申出の時の現状において第三者が利用することを許した制度であるから、弁論終結後に参加申出をした者に対しては、その時の状態において訴訟を利用することを許せば足りるのであつて、それ以上に弁論を再開してまで参加人のために便宜を図る必要はない。

2  控訴人は、弁論終結後に参加申出がされた場合、裁判所は、弁論を再開する義務がある旨主張するが、弁論を再開するか否かは専ら裁判所の裁量に委ねられており(同法一三三条)、必ず弁論を再開しなければならないとすると、時機を失してなされた参加申出のために、既に判決を期待できる状態にあつた当事者の利益が害されるという結果を招くことになつて、同法一三九条の法意にも反することになる。

原判決はこれまでの訴訟の経過、控訴人の態度等原判決摘示の事実から弁論を再開する必要を認めず本来の訴訟について判決をなしたもので、その判断は極めて正当である。

3  次に、控訴人は、独立当事者参加の申出は、被参加人らに対する訴え提起の実質を持ち、参加の申出が却下されたとしても訴訟要件を具備している以上被参加人らに対する訴えは残るので、参加訴訟について却下判決をなすべきでない旨主張する。

しかし、独立当事者参加の制度は、第1項で主張したように、もともと他人間に存在する訴訟をその参加申出の時の現状において第三者が利用することを許した制度であるから、本来の訴訟の口頭弁論が再開されなければ、弁論終結後の参加申出についてはもはや当該審級で審判を受けることはできない。原審裁判所が参加申立てのあつた本来の訴訟について弁論を再開することなく判決をなした以上、参加申出は却下されるべきであり、本件参加訴訟についてこれを分離して却下の判決をなした原審の措置には何ら違法はない(大阪高判昭和三五年四月二七日高民集一三巻五号四四九頁、最判昭和三八年一〇月一日裁判集民事六八号五頁)。

4  以上のとおり、原判決は正当であり、控訴人の主張は理由がないから、速やかに棄却されるべきである。

理由

一  四八一号事件の判決に対する控訴人の控訴について

一件記録によると、四八一号事件は昭和五八年七月一八日口頭弁論が終結されたところ、控訴人はその後の同年八月三日本件当事者参加の申出(一三三九号事件)をなし、同月三一日口頭弁論の再開を申立てたが、京都地方裁判所は口頭弁論の再開をせずに同年一一月一六日四八一号事件の判決を言渡し、一三三九号事件については、口頭弁論を開くことなく前同日、控訴人の当事者参加の申出そのものを不適法としてこれを却下する旨の判決(原判決)を言渡したことが認められる。すると、四八一号事件の訴訟手続内では、控訴人は当事者ないしは当事者参加の申出をした者として取り扱われず、同事件についての判決は原告国と被告李相俊を当事者とし両者間の請求についてのみ判断したものであるから、右判決について控訴人が控訴をなす適格を有しない(同事件の控訴審において控訴人が別に当事者参加の申出をする余地のあることは別論である)こと明らかである。したがつて、本件控訴のうち、四八一号事件についてなされた判決の取消しと同事件の第一審裁判所への差し戻しを求める部分はそれ自体不適法である。

二  一三三九号事件について

1  当裁判所も控訴人の四八一号事件への当事者参加の申出を許さないのが相当であると判断するものであり、その理由は原判決の理由と同じであるから、その記載をここに引用する。

2  ところで、他人間の訴訟に対し第三者が民事訴訟法七一条によるとして独立当事者参加の申出をしたがその申出が参加の要件を具えない場合、裁判所は判決をもつて参加申出を却下するほかはないが、申出の趣旨とするところが参加申出が許されない場合は被参加人らに対する請求について通常の訴として審判を求めるというにあるときは、当事者参加の申出は一面訴の提起たる実質を有するから、裁判所は独立の訴が提起されているのと同様に取り扱い、進んで当該の請求そのものについて審理判断すべきものであると解するのが相当である。これを本件についてみるに、控訴人の本件独立当事者参加は、前記のとおり、四八一号事件の口頭弁論が参加申出の前に終結され再開がなされなかつた以上不適法であること明らかであるが、控訴人の主張は、四八一号事件への参加申出に固執してこれが許されないときは被控訴人らに対する請求は全く審判を求めないというのではなく、右申出が許容されないときは通常の訴として審理判断を求める趣旨であると解される(なお、控訴人は当審において裁判長の命令に従い右請求にかかる手数料として金一六九万三二〇〇円の印紙を納付した)から、裁判所として、控訴人の被控訴人らに対する請求について更に審理判断をすべき筋合いであるところ、本件においては、前記のとおりの経過により、右請求について第一審の審理判断を経ることなく控訴審に事件が係属するに至つたものであるので、控訴裁判所としては、原判決を取り消した上事件を第一審裁判所に差し戻すべきものである。

三  よつて、本件控訴のうち、四八一号事件の判決の取消しと同事件の差し戻しを求める部分を却下し、一三三九号事件についてなされた判決については、これを取り消して同事件を京都地方裁判所に差し戻すこととして、主文のとおり判決する。

(裁判官 今中道信 露木靖郎 斎藤光世)

【参考】第一審(京都地裁昭和五八年(ワ)第一三三九号 昭和六〇年一月二九日判決)

主文

参加人の当事者参加申出を却下する。

当事者参加の申出によつて生じた訴訟費用は、参加人の負担とする。

事実

参加人は、原告国と被告岩本相俊こと李相俊間の当庁昭和五五年(ワ)第四八一号事件(以下被参加事件という)について次のとおり当事者参加の申出をなした。

一 参加人の請求の趣旨

1 被参加人(原告)の請求にかかる四億五〇〇〇万円及び内金四億二八〇〇万円に対する昭和五二年七月三一日から支払ずみまで年五分の割合による債権は、全部参加人に属することを確認する。

2 被参加人(被告)は参加人に対し、四億五〇〇〇万円及びこれに対する昭和四九年七月一日から昭和五〇年一二月三一日まで年一割五分、同五一年一月一日から支払ずみまで年三割の割合による金員を支払え。

3 参加による訴訟費用は被参加人(原告・被告)の負担とする。

との判決及び2項につき仮執行の宣言を求める。

二 参加人の参加の理由

1 被参加人(原告・以下単に原告という)は、参加人に対し六億一四〇〇万円に余る所得税等の滞納があると主張し、参加人の被参加人(被告・以下単に被告という)に対する貸金債権を差押え、これの取立訴訟を提起した。右訴は、御庁昭和五五年(ワ)第四八一号差押債権取立請求事件(被参加事件)として、御庁に係属中である。

2 しかしながら、原告の主張する参加人に対する右国税債権の根拠たる課税処分は、当然に無効であり、国税債権は存在しないから、これに基づく、差押えも違法である。

すなわち、右課税処分は、参加人の昭和四八年分、昭和四九年分の所得金額を故意に誤つて更正決定をなし、参加人のような大口の貸付金債権を擁する金融業者に当然ある貸倒れ損金の存在に意識的に目をつぶり、何ら根拠なく、恣意的に参加人の所得金額を認定したものである。右は、大阪国税局が、行政処分たる課税処分をするにあたつて許された裁量権の行使の範囲を著しく超え、若しくは裁量権を甚しく濫用したものであり、しかもその瑕疵は重大かつ明白である。

したがつて、参加人は、原告が被告に対し参加人の債権につき取立権を取得したとしてなされる被参加訴訟事件に、原告の参加人に対する債権の不存在確認を求めて参加するものである(いわゆる権利主張参加)。

3 また、仮りに原告の参加人に対する課税処分が無効ではないとしても、参加人が本件被参加訴訟を追行しているかぎり参加人は同一の貸金の返還を求めて被告に対して別訴を提起することができず、かつ、原告と被告との間の判決の既判力又はその間の訴訟上の和解、放棄、認諾の効果は、全面的に参加人にも及ぶことになる。

したがつて、参加人は、被参加事件の結果によつて権利を害せられるべきものにあたるので、参加の利益を有する(いわゆる詐害防止参加)。

三 参加人の請求原因

1 参加人は、被告に対し、次の約定の下に、昭和四九年六月三〇日、金四億五〇〇〇万円を貸渡した。

(一) 返済期限 昭和五〇年一二月三一日

(二) 利息   年一割五分。但し期限内に元本全額返済のときは、利息免除の特約。

(三) 損害金  返済期限から支払ずみに至るまで年三割。

2 しかるに、被告は参加人に対し右金員を返済しないので、参加人は被告に対し、請求の趣旨記載の金員の支払を求める。

3 また、前記二の2項のとおり、原告が被告に対して被参加訴訟で請求している債権は、全部参加人に属するので、参加人は原告及び被告に対し右事実の確認を求める。

理由

一 被参加訴訟の記録(但し、原告国、被告岩本豊子こと李豊子間の当庁昭和五五年(ワ)第一一二九号土地建物所有権移転登記抹消登記手続等請求事件を併合ずみ)及び本件当事者参加申出事件の記録によれば、参加人は、本件被参加訴訟の口頭弁論の終結(昭和五八年七月一八日)後、その判決言渡前である同年八月三日民事訴訟法七一条に基づき本件当事者参加の申出を当裁判所にしたことが明らかである。

二 そこで、被参加訴訟の口頭弁論終結後になされた当事者参加の申出の適否について考える。

民事訴訟法七一条の法文によれば、参加人は、訴訟が事実審に係属中である限りは、当該の審級に参加し得るものとされ、これによれば、口頭弁論終結後その判決言渡前においても、同様に、訴訟が係属している事実審の当該審級に参加し得るかの如くである。しかしながら、右条項は、参加人に対し、他人間の訴訟について、参加申出当時の訴訟状態において加入して、三当事者間に矛盾のない判決を求め、あるいは、従前の当事者による馴合的訴訟遂行を牽制しうることを認めたものであるから、その趣旨に照らすと、被参加訴訟の口頭弁論が終結した後においては、もはや当該審級に参加の申出をすることはできないものと解すべきである。けだし、そのような申出を許すとするならば、裁判所は、必ず口頭弁論を再開して改めて三者間の訴訟について新たに審理を行わなければならないことになるが、そのような事態は、口頭弁論の再開を裁判所の専権に属せしめた民事訴訟法一三三条の法意に反し、また、時機に遅れてなされた参加申出のために、既に判決を期待し得べき被参加人の利益を害する点において同法一三九条の法意にも反するのであつて、そのような不当な結果を招いてまで、弁論終結後の参加申出を許容しなければならない理由はない(最高裁判所昭和三八年一〇月一日判決裁判集六八号五頁参照)。

三 もつとも、以上のように解しても、裁判所がその裁量により弁論を再開するときは、参加の申出は適法となる余地があり、現に、参加人は、昭和五八年八月三一日弁論の再開を申立ている。しかしながら、被参加訴訟の従前の経過、及び当裁判所に係属中の後記訴訟により当裁判所に職務上明らかな次のような事情等に照らすと、被参加訴訟の弁論を再開すべきものとは到底認められない。

1 被参加訴訟において、原告国は、約三年前で審理の始めである昭和五五年九月六日、参加人に対して既に被参加訴訟の告知をなし、訴訟告知書副本が、同年同月九日参加人に送達されている。

2 しかし、参加人はこれに参加しなかつたのであるが、右訴訟における原告及び被告の主張に照らし、参加人は右訴訟における最も重要な証人であつたことから、当裁判所は、被告の証拠申出を採用し、再三にわたり参加人の証言の聴取を行おうとした。しかるに、参加人は、いずれの期日にも出頭せず、審理は空転を重ねた。その過程において、被告代理人(中山福二弁護士)の法廷における説明によれば、参加人は所得税法違反の被告事件により審理中であるが(弁護人は、参加人代理人たる柴田茲行弁護士)、公訴事実を争い、審理には二〇年はかかると言つていると伝え聞くとのことであり、本件訴訟についてもその進行を望まず任意の出頭は得難いものと判断されたので、当裁判所は、被告代理人の求めにより、昭和五八年二月七日の第一三回口頭弁論期日以降は、三回にわたり勾引状を発する等してその出頭の確保を試みたが、結局、その執行をなし得なかつた。そこで、当裁判所はやむなくその採用を取消し、若干の審理の後、昭和五八年七月一八日被参加訴訟の口頭弁論を終結したのである。

3 他方、参加人は、既に原告が差押えたうえ被参加訴訟において請求しており、かつ、参加人自身が本件参加により被告に対し請求する四億五〇〇〇万円の貸金債権の弁済のために、被告から、昭和四九年六月三〇日右金額を額面とする約束手形の振出を受けていたが、原告からの貸金債権の差押えに際し、これの差押えを免れていた。しかるに、昭和五八年に至つて、突然、右手形の満期日(当初昭和五〇年一二月三一日とされていたが、その上に被告の訂正印が押捺されていた)が、昭和五八年二月八日と訂正補充されたうえで、参加人からの裏書を経た訴外木下俊夫こと尹漢相から、銀行へ取立がなされた。そして、右手形が不渡りになると、尹漢相は、右手形金債権を被保全権利として、被告の資産に仮差押えを行い、続いて、被告に対し、四億五〇〇〇万円の手形金請求訴訟を提起している。右仮差押えの疎明資料において、尹漢相は、昭和五七年暮ごろ右手形の裏書を参加人から得たと述べている。したがつて、右が真実であるとすれば、参加人は他方で四億五〇〇〇万円の手形を第三者に裏書し、他方で自ら被告に対し四億五〇〇〇万円を貸金として請求せんとしていることになる。

4 さらに、参加人は、課税処分の当然無効、国税徴収法五四条に基づく差押の当然無効を主張し本件の参加を申出ているものであるが、既に、同一の課税根拠に関する所得税法違反事件については前記のとおり長期間の審理を経ながら、結論に至つていないものであり、民事訴訟手続によつてこれを調べるとしても、参加人主張の争点は多岐にわたることが予想され、仮りにこれに応ずるとするならば、長期間の審理を要することは必定であり、その結果、本来公定力を有する課税処分に基づいてなされている原告の被告に対する被参加訴訟における請求は、その間満足を得ないこととなる。

四 そこで、当裁判所は、以上のような諸事情を勘案した上で弁論を再開することなく被参加訴訟について、昭和五八年一一月六日、判決を言渡した。したがつて、本件参加の申立は、最終的にも不適法であり、その欠缺は補正することができないものであることが明らかであるから、民事訴訟法二〇二条に基づき、口頭弁論を経ずしてこれを却下することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 小田耕治)

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